2014年04月02日

あなたも体は左ヘねじれている (パート2)

皆様 今日は

背筋が伸びたきれいな姿勢を保つということは、普段そうである人にはごく自然なことなのに、情報端末の特に手のひらサイズ画面を覗くことの多い人にとっては頭は前に傾くため猫背になりやすく、ますます良い姿勢は困難なこととなって来ました。
10代の危機です。

背筋が伸び、体の歪みについて、長年得られた体の歪み方のデータを分析し資料として情報公開を行っています。
本日は姿勢の分析についてで、どうぞお付き合いくださいませ。

【なぜ姿勢分析を行うか】
体部位の用語で、頭や手足を含まない体を体幹と呼びます。肩は肩甲帯、肩の先端を肩峰(けんぽう)と呼びます。
体幹肩甲帯


施術の効果を高める目的で患者さんに撮影台に立っていただきデジタルカメラで姿勢を分析して18年になりますが、この研究を開始したころ、デジカメが発売され購入したのはCAS社製で金額は5万円、画素数は30万画素程度のわずかなものでした。今は1,500万画素で大変な高性能になっています。
姿勢分析は患者さんの体の具合が悪い筋肉を探すことにつながるのですが、体調が良く健康な方の肩位置は片側が前方で反対側は後方の非対称の方が大勢です。その歪みは問題の種を持つのですが、でも健康です・・
そんなことがわかってきました。

前回の四方山話は骨盤の問題で、「健康と考えている半数以上の健常者は右の骨盤が歪んでいる」を思い起こしていただくと、あるいはそのことが理由で右側の体幹が下図のように前へ歪んでいても不思議ではありません。
体幹健康体骨盤


姿勢を研究する分野で、体の横から見て肩甲帯を計測する情報は数多く知られるのですが、体の横断面における左右の回旋に関する情報は調べた限りではまだないようです。

日常に肩甲帯が左右で非対称の位置にあるなら、姿勢は不安定となり腰痛、肩こりをはじめ多くの有訴症状をもたらすので体が恒常性を維持するためには大きなマイナス要因です。左右の肩甲帯位置は人それぞれが無秩序にバラバラで非線形的な個人だけの問題なのか、あるいはそうでなく規則的に秩序を持って線形的な問題を抱えているのかどうか、脊椎原性動物であるのヒトとしては大変興味のあるとことです。そこで調査を行うことにしたわけです。

方法は同じ年齢層の方を一集団として10歳代、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代と60歳以上の6グループの同じ位置を計測します。体が回旋しているのかどうかは年齢の推移と肩位置との関係を調べることで明らかになります。


【体の左回りとはどこを云うのか】  
 体の左回りについて説明しましょう。
下図は体幹を真上から見ています。
体幹横断面正常左回旋
理想的な像を示し、水平に引いた左右位置の先端が肩峰、左右の肩甲帯位置は対称性の位置にあり回旋はありません。
一方、下図は左回りを行っています。左肩位置は水平線よりも後方で、左右を結ぶ点線は左が右よりも後方に傾き、左右の肩甲帯は非対称の位置にあり、体は左回旋しています。



【肩甲帯位置の調べ方】
では実際に300人の肩甲帯位置を測定した結果を示します。

肩甲帯位置の測定方法
矢状面肩甲帯の位置計測は、矢状面の頸部前後厚径の中央位置から片付根前後厚径の中央位置までの距離を次のような方法で計測します。写真撮影台は黒色壁に白色の垂直線と、床は20㎝四方を四分割したラインを描き、立位の左側の矢状面像をオリンパス社:E330デジタル一眼レフカメラ、画素数3136×2352で撮影します。被験者はカメラレンズから真横を向いた状態で立ち自然体で背筋を伸ばした立位姿勢を撮ります。撮影後、反対側に向いていただき右側の矢状面像を撮影します。
○画像の加工
立位像は、コンピュータ(CPU;2GHz,RAM;256MB)を用い画像加工ソフト;フォトショップを垂直像に修正し、編集ソフト;ページメーカーを使い測定を行います。
○左矢状面の理想重心線の決定
まず左矢状面像の頸部付根辺りを拡大し、頸部付根の斜め前後厚径(前は頸部と胸部の境目、後は胸椎1番棘突起の表皮)を計測しその1/2位置を頸部厚径の中央点(0㎜)と定めた。頸部付根厚の中央点は理想鉛直線が通過する位置と定義した。
○左肩甲帯位置の測定
同画像は肩峰辺りを中心にし、肩関節の前後を読み取り厚径を計測した。前後厚径の1/2位置を肩峰の中央点と定めた。
左肩甲帯位置は頚部付根厚の中央点から肩峰中央点までの水平線上の距離で表した。頚部付根厚中央点から屈曲位側を正数値、伸展位側を負数値とし、実数値(mm)に換算した。
右肩甲帯位置も同様の操作で求めた。
肩甲帯位置測定法
日本カイロプラクティック徒手医学会誌、2011年、Vol.12、p.58-64.


【体幹は左回旋している】
では測定した結果をお示しします。
健常者、腰痛者及び肩こり者の肩甲帯位置の平均値と標準偏差を下表に示します。標準偏差とは値の散らばり具合を表す指標で偏差値が小さいほど平均値の信ぴょう性は高くなります。

300例の左右肩甲帯位置

健常者の左右位置はそれぞれ-6±9.7㎜、0±8.9㎜です。腰痛者は-4±10.8㎜、-1±11.2㎜で、肩こり者では-2±11.6㎜、4±9.7㎜でした。肩こり者は健常者よりも有意に前方(屈曲位側)にあることが分り、有意の差があるというのは2群の位置は明確に違うことを示しています。
左肩甲帯は3群ともに後方(伸展位側)にあり、右位置は中間位から屈曲位側で、左右の位置関係は統計的に離れています。腰痛者と肩こり者の左右位置は正の相関性を持つので、左回旋しています。



次に10歳代から60歳代以上の各年代の平均値を見ます(下図)。
健常者では10歳代の左右位置は0±4.3mmと2±6.9㎜でした。20歳代以降では、左位置は数ミリ伸展位に後退し、右位置もわずかに後退です。30歳代の左右位置は統計的に違いがありました。
腰痛者の10歳代は-2±9.0mmと1±7.4㎜でした。20歳代以降では左右はバラツキながら後退しています。60歳代以上の左位置は10歳代~40歳代の左位置よりも後退し、60歳代以上の右位置は20歳代の右位置よりも後退していました。
肩こり者の10歳代の左右位置は9±13.4mmと11±7.7㎜の強い屈曲位側でした(下図右)。20歳代以降では左右位置はバラつきながら後退です。20歳代、40歳代及び60歳代では左位置は右位置よりも統計的に後退し、60歳以上の左位置は10歳代~30歳代の左位置よりも後退しています。
10歳代の左右体幹はともに屈曲位側にあることが分り、肩こり症はかなりの屈曲位へ歪んでいる様子も判明しました。20歳代に入ると頸部基点の前方側から後ろ側に下がり、右肩甲帯よりも左肩甲帯が大きく下がっていきます。3群とも同じ傾向で60歳代以降まで下がっていきました。
特に肩こり者の体幹の歪み方は大きく、肩こり者らしい推移であったように見えます。
300例健常腰痛肩こり者左右肩甲帯位置年齢変化


年齢と左右位置の関係を見ると、腰痛者では年齢と左位置の間で負相関を、左右の位置間で正相関を検出しています。肩こり者も年齢と左位置の間で負相関を、左右の位置間で正相関を検出しました。

健常者と有訴者の年齢別に置ける矢状面の左右肩甲帯位置を調べたところ、体幹の左回旋が関わり体の左右非対称とする本質的な問題がありそうなことがわかりました。


【退行性の体幹左回旋と体型変化】
ここからは図表に描かれた値の違いをどう読み説くか、科学的な言葉では考察を行うと云いますが、測定値を基にして体内で何が起こっていたのかを推理してみます。
20歳代を過ぎるころから加齢に伴う変化として体機能の多くはピークを過ぎ下降に推移することが知られますが、左肩甲帯が年齢とともに後方側へ移動していく変化と重なります。
加齢に従い身体的特徴の変化として、身長は加齢に従い低くなることはよく知られることですが、逆に加齢に従い矢状径と云って胸部の前と後までの胸板厚みの距離は増えることはあまり知られていません。高齢者男女(60歳以上)と若年者(18-30歳)の矢状径を比べると、平均16mm厚くなるそうです注10。これは解剖学的には年齢が増すと胸部体幹は矢状面で前後に膨らみも増すということとなります。
本研究の60歳代の左右肩甲帯は頚部鉛直点から後方側へ移動することと重なり、補填と年齢の増加が連動し胸部の立体構造を歪めて行くように思われます。
一般的に高齢者になれば10代の頃の軟部・結合組織、筋肉群の柔軟性は減少し、体幹の左回旋負荷は生涯続き、姿勢安定性を確保しつつ左肩甲帯は伸展位側へ流れて行くと推測します注5。
脊椎分節運動を制限する上下椎骨どうし間の骨棘化、椎体内で生じる結合組織の肥厚などは補填による弊害とも考えられ、椎間関節腰痛症注11や脊柱間狭窄症注12など局部性の強い症状を呈するのではないでしょうか。


【10歳代の健常者と肩こり症の矢状面姿勢】
健常者は右仙腸関節の外方変位を起こす年齢は10歳以下では不明ですが、10歳以上ですでに存在していることを確認しています。

左右位置は屈曲位で回旋様相を示していない理由は、椎骨の特徴的な横突起や棘突起の先端、椎体の上面・下面の骨化形成は10歳代に表れ、骨化融合注18は20歳になってから表れるとされるので、成長期の脊柱の柔軟性がもたらせたのかも知れません。

あるいは10歳代以上の健常者は右外方変位があるにもかかわらず左右位置は中間位を保っていたのは、左回旋の負荷に対する脊柱筋肉群の収縮による内在的な抵抗力のような働きがあり、それは体幹の左回旋に対し、体は反射を起こし脊柱を回旋させて中間位に補正させ、若年者における姿勢恒常性は良い環境にあると想像しています。

未成年の肩こり症のお子さんは自分の意志で来院できないので御両親が連れてこられます。強い肩こり症のためスイミング教室に通ったけれどぱっとしないので来院されたケースもあります。学童年齢で肩こり、頭痛や腰痛の症状は増えてきており、筋骨格系疾患者の問題を抱えているお子さんの将来は両親の愛情にかかっています。

肩こり症で受診された10歳代の年齢と左肩甲帯に位置との相関性を調べました。
有訴者10代と左肩甲帯位置散布図

横軸にお子さんの年齢、縦軸には左肩甲帯の測定値をとり、それらの相関性の有無を調べました。その結果、年齢と左位置とは負の単相関関係を持っていることがわかりました。年齢が増すと左位置は後方に下がるという結果です。10歳代の肩こり、頭痛を抱えるお子さんの辛さが左右肩位置の歪みに見えてきます。

姿勢に関わる現代科学は、体に生じる機能制限を基軸とした姿勢障害後に対する対処方法が中心となっています。本書に示す健常人は左回旋のねじれを有していてそれに対し姿勢は逆方向の補正を行うと云う概念はありません注20,21。
体幹の左回旋をもとに補正機能というものを想像してみます。
過少・過剰な補正があるとすると、体幹構造は健康的な歪み方よりも強調された強い変化をもたらせ、肩こり症だけでなく多彩な有訴症状の原因に関わることが想像できます。
右寛骨の外方変位、自己調節能が適切でないために起こる過不足の補正、代償を伴い補填に変わる構造変化が神経筋肉骨格系疾患の発症に関わると考えています。
安定を保っていた姿勢が何らかの原因で歪んだり不安定になれば、体の中では関節や腱、内耳の固有受容器が姿勢中枢に信号を送り、中枢は姿勢に関わる筋肉に安定な姿勢をもたらします。左回旋した不安定な姿勢を補正する筋肉は椎骨の固有背筋で、脊柱を右回旋の方向に補正すると推測しています。この補正の考え方は次回の四方山話に続きます。

まとめ
1) 10歳代の健常者における肩甲帯の位置は中間位から屈曲位側にあり、左右は対称性に位置すると推測される。20歳代以上になると左肩甲帯は伸展位に移動し、左右位置は非対称性になった。加齢に従い左右肩甲帯位置は頚部鉛直点から後方側へ離れた。
2) 腰痛者の肩甲帯位置は健常者との差はなかった。
3) 10歳代の肩こり者の左右位置は健常者より屈曲位にあった。20歳代以上になると健常者の推移と同じであった。
4) 有訴者は左肩甲帯位置と年齢との間に負相関を、左右の位置間で正相関を検出した。


桜カイロ
院長 吉野和廣
  


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